| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) H2-18 (Oral presentation)

社会・生態システムにおけるマルチエージェント・シミュレーション

*森俊勝(東京農工大・農,構造計画研究所),酒井憲司(東京農工大・農)

社会-生態系の管理へのマルチエージェント・シミュレーション手法の導入を目指し,ここでは,アライグマを対象したシミュレータ構築を行った.ペットとして輸入されたアライグマは,適応能力に優れた動物であることから,1970年代に飼育個体の遺棄や放逐によって野外に定着して以来,全国的に生息域を拡大しており,近年,農業等被害のみならず生態系への悪影響が危惧されている.アライグマをはじめとする移入動物問題は,従来日本において関心が薄く,対応も遅れていたが,2005年にアライグマが特定外来生物に指定され,各地で様々な防除の取り組みが行われるようになった.今後アライグマの拡大を抑制するためには,早急により多くの個体を捕獲することが重要となる.そのためには,アライグマの目撃情報に基づいて罠を配置することが効果的であるが,現状においては,一般家庭におけるアライグマ被害の認知度は低く,目撃情報が十分得られないため,アライグマの拡大への対処が十分なされていない.

本研究では,住民の目撃情報提供割合によるアライグマ拡大抑制効果をマルチエージェント・シミュレーションのアプローチを用いて評価し,情報提供の効果を検証する.今回は,ケーススタディとして東京都日の出町を対象とする.植生や標高,道路,河川などの地理データおよび住民の居住分布などの都市構造データをもとに仮想的な対象地域をコンピュータ上に構築する.そして,現地調査データや,繁殖,食性,移動パターンなどを基にアライグマの行動をモデル化したエージェントを仮想空間内において行動させ,現地の被害状況を模擬するシミュレータを構築する.これを用いて,住民の目撃情報提供割合による捕獲数や被害状況への効果をシミュレーション上で評価する.これにより,効果的なアライグマ対策のシナリオを検証するとともに,マルチエージェント・シミュレーションの里山生態系管理全般への適用可能性を示す.


日本生態学会