| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) H2-23 (Oral presentation)
大型草食動物の採食は,地表層植物群集のバイオマスを単に減少させるだけでなく,種を選択するフィルタとしても機能する。このフィルタは双方向性をもち,弱い採食圧の下では種間競争(光獲得)優位の種群を志向し,強い採食圧の下では採食耐性の高い種群を志向すると予想される。双方のフィルタリングが弱い中程度採食圧の下では,両方の種群が混在し,種数が最大化するだろう。地域内で採食圧に空間的異質性があれば,地域群集全体のβ多様性は増大するだろう。これらの予想を検証するため,シカの生息密度に顕著な地理的勾配のある房総半島において,林床植物群集の構造を調査した。
房総半島のスギ人工林と広葉樹二次林それぞれ約 30 箇所においてサンプリングを行い,出現した林床植物種の被度を調べる一方,全天写真を撮影し林床付近の明るさ(開空度)を計算した。また,各調査地点におけるシカのインパクト強度(DDI)と土壌湿性度(地形的土壌湿性度指数 = TWI)を,1996~2004 年のシカ糞密度と DEM を用いてそれぞれ求めた。
二地点間における非共通種の割合は平均 79% であり,本地域のβ多様性は高かった。正準相関分析の結果,DDI が CCA1 軸と比較的高い相関を示したことから,シカのインパクト強度は他の環境要因(林相,開空度,TWI)より群集構造への寄与が大きいと考えられた。DDI 両極値付近における局所群集は互いに排他性を示し,それぞれの局所群集は中程度 DDI 値付近の局所群集に部分的にネストしていた。さらに,中程度 DDI 値付近に分布中心を持つ種が多かったため,中程度 DDI 値付近で局所種数が最大化した。以上の結果は所期の予想と合致し,大型草食動物の採食圧が地域スケールの植物群集構造の規定要因となりうることを示唆する。