| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) J1-08 (Oral presentation)
一般に、餌探索をする動物がとりうる戦略として、過去の採餌経験に基づき移動パターンを変化させる行動が有効であると考えられる。しかし、海洋動物においては、動物の移動軌跡と採餌経験のどちらも調べることが技術的に難しかったため、それらの情報を組み合わせた餌探索戦略に関する研究はほとんどなかった。そこで本研究では、海洋動物であるナンキョクオットセイにおいて、近年開発された新しい手法を使用して1秒毎の詳細な時間スケールでの口の開閉(採餌経験の指標)を検出し、その時の移動軌跡を調べることによって、オットセイの餌探索戦略の解明を試みた。野外調査を2009年の1月から3月に、亜南極サウスジョージア・バード島にて、授乳期間中の雌のオットセイ(n=3)を対象とし実施した。オットセイの下顎や背中に装着した様々なセンサを搭載した動物装着型記録計から、動物の行動記録を取得した。オットセイの下顎の加速度記録から、口の開閉を検出し、さらに地磁気と加速度、速度、深度、GPSの記録から3次元遊泳軌跡を再構築した。これらのデータを基に様々な時間スケールで口の開閉と移動軌跡の関係を調べた。まず潜水バウトスケール(平均99分)では、口の開閉頻度と潜水バウト終了後の水平直線移動距離の間に関係は見られなかった。次に1回の潜水サイクルのスケール(平均152秒)では、潜水中の口の開閉回数が多い時に潜水後の水平直線移動距離は短かった。次に潜水中のボトムのスケール(平均51秒)では、口の開閉回数が多い時に潜水遊泳軌跡は非直線的であった。これらの結果は、ナンキョクオットセイが、餌の分布の変化が少ないことが予想される短い時間スケールで、餌に遭遇した場所を集中的に探索する行動とっていることを示すと考えられた。