| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-18 (Oral presentation)

コメツキガニの巣穴を巡る闘争行動:闘争時間から何が分かるか?

*古賀庸憲(和歌山大・教育), 吉野健児(佐賀大・低平地沿岸), 熊谷直喜(琉球大・熱生研), 池田早登司(和歌山大・教育)

動物たちは闘争時間を、相手との資源保持能力の差と資源の価値についての情報を統合して決めると考えられる。しかし複数の機能を持つ資源では、競争者がそれぞれ質的に異なる役割について資源を評価し、その価値の大きさを決めるため、闘争の動態はより複雑かもしれない。私達はそのような闘争を、コメツキガニで調べた。本種の巣穴は捕食者からの避難場所と繁殖場所という複数の機能を持つ。まず自然条件下の闘争では、資源保持能力の差が大きいほど闘争時間は短かった。次に対戦者にとって資源の価値を質的に変えるため、2つの実験を行った。実験1:侵入者にのみ捕食リスクを認識させることで避難場所としての巣穴の価値を高め、無操作の所有者と闘わせた。実験2:所有者の巣穴にあらかじめメスを入れ、繁殖場所として巣穴の価値を高めておき、捕食リスクを認識した侵入者と闘わせた。すると実験2において、闘争がエスカレートしやすく、闘争時間も長かった。しかし、長くなった闘争時間は単純に両者の資源保持能力の差では説明できなかった。実験2において、侵入者が勝った対戦と負けた対戦を比較したところ、闘争時間は侵入者の勝った対戦の方が長かった。即ち、侵入者はメスを得た所有者との対戦で、すぐに負ける場合と時間をかけて勝つ場合に分かれた。本種は隠蔽色であるが、対戦のエスカレートは個体を目立たせ、周りに対しても無防備にさせる。したがって、捕食のリスクを認識した侵入者がメスを得た所有者と闘う場合、(1) エスカレートした対戦を速やかに終え静止する、(2) 避難場所である巣穴を獲得するまで闘う、という異なる対捕食者行動に関連した行動の個体変異が生じたものと推察される。


日本生態学会