| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) J2-22 (Oral presentation)
ペリカン目ウ科の海鳥は、足の水掻きによる潜水と翼による羽ばたき飛行という全く異なる性質の移動を両立しているため、その飛行能力は限定的であることが示唆されている(Watanabe et al. 2011)。また風を遮るもののない海上での飛行は、その影響を大きく受けているものと思われ、飛行能力の低いウ類にとって風への対応は重要な価値を持っている可能性がある。
スコットランド・メイ島にて、2008年から2011年にかけ繁殖中のヨーロッパヒメウの親鳥にGPS記録計と加速度記録計を装着し、飛行中の移動速度、羽ばたき周波数などを記録すると同時に繁殖地に風向風速計を設置し、飛翔行動に風の与える影響を調べた。
13個体から計106回の飛行データが得られた。飛び立ち直後に見られる羽ばたき周波数の高い部分を「飛び立ち」、その後のやや低い値に落ちつく部分を「巡航飛行」とみなした。巡航飛行中、GPSに記録された対地速度が大きく変動した (7-26 m/s , 平均13±4 m/s) のに対し、風を考慮に入れて算出された鳥の実際の体感速度、すなわち対気速度は風の強弱に関わらず比較的狭い範囲の値 (10-19 m/s , 平均14±2 m/s) をとり、羽ばたき周波数(平均 5.7±0.2 Hz)も風速による変化は見られなかった。これは、風環境が異なる状況でもヨーロッパヒメウが対地速度を維持するための積極的な対気速度の調整を行っていなかった事を示している。一方、海面からの飛び立ちに要する時間は風が強くなる程短くなる傾向が見られたのに対し、その際の羽ばたき周波数(平均 6.3±0.2 Hz)は風速による変化は見られなかった。また、飛び立ち方向は風上方向によく一致していた (V-test, p<0.0001) 。これは、羽ばたき周波数の調整は行っていないものの、風上に向かって滑走することで飛び立ちに要する時間を減少させ、エネルギーを節約しているものと考えられる。