| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) L1-05 (Oral presentation)
真社会性昆虫であるシロアリは、雌雄の有翅虫ペアで創巣するが、ヤマトシロアリは単為生殖能を持ち、雌の有翅虫ペアで創巣することができる。本種のニンフ(翅芽を持つ個体)あるいはワーカー(翅芽を持たない個体)への分化には、遺伝子と環境による影響があり、生殖虫不在の条件では、単為生殖卵は全てニンフに発生するが、生殖虫存在の条件では、一部の個体がワーカーに分化する。雌成虫ペアにより創設されたコロニーでは、通常より早い時期にニンフが出現する。これまで我々は、遺伝子型解析により、雌成虫ペアによる創設コロニーには、雌成虫間でニンフ生産に有意な偏りが生じる場合があることを明らかにした。その要因を考察するため、雌有翅虫ペアで創設した単為生殖コロニーを用いて、近年同定された生殖虫分化抑制フェロモンと、雌成虫との物理的な接触が仔虫のカースト分化に与える影響を調べた。
まず、生殖虫分化抑制フェロモンが、ニンフ分化をも抑制するかを調査した。その結果、フェロモンの有無にかかわらず、単為生殖卵から孵化した約90%の個体がニンフへ分化した。本フェロモンは、ニンフ分化の抑制には関係しないと考えられる。次に、創巣15ヶ月目のコロニーを用いて、(ⅰ)雌成虫と同居、(ⅱ)雌成虫を除去、(ⅲ)雌成虫との接触を制限、させた時に、単為生殖卵から孵化した個体がニンフに分化するかを調査した。成虫と孵化個体は、マイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型を判別した。その結果、雌成虫の有無によらず、一部の個体はニンフへ分化したが、雌成虫と同居させた場合に雌成虫間でニンフ生産に偏りが生じることが示された。雌成虫間でのニンフ生産の偏りは、雌成虫と仔虫との接触が原因で生じると考えられる。