| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) L1-09 (Oral presentation)

森林の遷移段階にともなうアリ群集の食性変化

*田中洋(岡山大・異分野コア),兵藤不二夫(岡山大・異分野コア)

アリ類は植物の花外蜜や半翅目昆虫の甘露などの蜜資源や、他の昆虫などの肉資源を利用する雑食性の動物であり、近年は環境の指標生物として用いられている。しかしながら、種による食性の違いや環境による食性の変化についてはよく分かっていない。本研究では、森林の遷移段階がアリ群集の食性に与える影響を明らかにするために、茨城県北茨城市小川試験地の周辺に広がる3つの林分(遷移初期:1~6年生、中期:11~24年生, 後期:50~105年生)の地上と林冠で、単位時間あたりの見つけ取り法によりアリの個体数を調べた。また、餌選好性実験(蜜資源としてハチミツ溶液、肉資源としてツナを設置し、誘引されたアリの個体数を比較)と窒素炭素安定同位体分析によりアリ群集の食性変化を調べた。その結果、遷移が進むにつれて、花外蜜や半翅目昆虫の甘露を採餌するアリ(例えば、Formica hayashi)の個体数は有意に減少することが分かった。また、遷移初期ではツナにより多くのアリ個体が集まり、遷移が進むにつれてハチミツ溶液に集まるアリの個体数が有意に増加することが分かった。この結果は、不足している餌資源を好んで利用するアリの餌選好性を反映していると考えられた。また、アリ7種間で窒素安定同位体比に有意な差があったが、林分間では各アリ種の窒素安定同位体比に有意な差がないことが分かった。さらに、種構成が遷移段階に沿って変化し、その変化に窒素安定同位体比が高いアリ種(Ponera scabra, Apahenogaster japonica)の個体数の増加が影響を及ぼすことが分かった。これらの結果から、森林の遷移段階に伴って、それぞれのアリ種の食性は変化しないが、蜜資源に依存するアリ相から肉資源に依存するアリ相に変化することが示唆された。


日本生態学会