| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) M2-17 (Oral presentation)

一年生カタツムリの生活史と分布拡大

*入村 信博(千葉県立千葉北高校),浅見崇比呂(信州大·理·生物)

小さな動物の場合、野生集団の生活史は容易にはわからないことが多い。越冬するカタツムリの場合も、世代時間の長さを含め、自然状態での生活史が明らかな例は、皆無に近い。コハクオナジマイマイ(以下コハク)とオナジマイマイ(以下オナジ)は、陰茎内壁を除く形態形質が酷似し、交雑すると、前者からは正常に繁殖する雑種が得られる。自然集団での遺伝子浸透も、核・ミトコンドリアDNAのマーカで確認されている。それほど近縁であり、どちらも平地に生息し、人と共に移動分散しやすいにもかかわらず、分布域が著しく異なる。オナジは、ほぼ全世界の温・熱帯、国内では本州以南に分布する。だが、コハクは、主に西日本と房総半島に分布する。コハクの分布域はオナジの分布域に包含されているが、両者が同所的に生息する地点は見つけにくい。コハクは現在、関東地方に向けて、太平洋岸沿いに分布を拡大中である。房総半島108地点を調査した5年間で、オナジが生息する4地点にコハクが侵入・定着した。他の3地点では、オナジが消失し、コハクだけに置換した。これは、侵入後わずか数年間で2種が置換することを示す。コハクは、4月中旬に幼貝が地上部に現れ、50%が9月下旬までに成熟し、10月中旬から1ヶ月間に成貝が消失する。オナジを含め、巻貝の殻は死後も残存するのが普通である。だが、コハクの場合、10月には、生存中に殻がぼろぼろに壊れてはがれてゆき、それでも産卵可能であることがわかった。この現象が、近年分布を広げた北限に特徴的か否かを知るために、分布南限に近い鹿児島市で調査したところ、同様に、殻が軟弱化した個体が生存・産卵することがわかった。野外ケージ実験、およびコドラート内の網羅的調査の結果、コハクは、主に秋に産卵し、稚貝で越冬することがわかった。一方、オナジはあらゆる齢で越冬する。近縁な本2種間で生活史が著しく異なることが明らかである。


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