| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) M2-18 (Oral presentation)
東京湾の再生を評価する場合、釣りの対象として人気のあるマハゼの回復がひとつの指標となる。マハゼは冬に深場で産卵・ふ化し、稚魚は春に浅場で着底、夏にかけては底魚として主に浅場で成長し、秋には繁殖のために深場に移動すると言われている。1980年代前半の東京湾奥では、羽田、隅田川河口、三枚洲などが主要な産卵場所であり、1990年代では羽田、お台場、15号地先で生息産卵孔が多く確認されていた.しかしながら、2008年以降の調査では、羽田を除いて安定的に生息産卵孔が見られる場所が減少しており、生活史が変化している可能性が示唆された.今日の東京湾奥において、彼らはどのような場所で生まれ、成長しているのか?本研究では、2009年7月~10月に東京湾奥で採集したマハゼの耳石の輪紋と微量元素解析(Sr/Ca)から成長段階ごとの塩分環境を推定し、生活史がどのように変化しているのかを明らかにした。
輪紋数から、東京湾奥のマハゼは12‐6月にふ化し、1-2月がふ化のピークであると考えられた。耳石のSr/Caの変動には少なくとも1.高→低、2.低→高、3.一定、の3パターンがあり、各採集地点でこれらが混在した。定説の生活史から期待されるSr/Caの変化は、パターン1であるが、これに符合したのは解析した個体の半数以下であり、ほとんどの地点で、定説とは異なるパターン2および3の個体が採集された。また、ふ化後20日間のSr/Caの平均値が5以下の個体も各地点で採集されており、東京湾奥の環境をあわせて考えると、低塩分の浅瀬もしくは河川上流域において産卵する個体がいるものと推定される。浅瀬や河川上流域での産卵は、沖合の深場で産卵できない状況下での適応戦略であり、マハゼにとって今日の東京湾奥においての浅瀬や河川上流域は、稚魚が着底・成長するだけでなく、産卵場所としても重要となりつつあると考えられる。