| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) M2-19 (Oral presentation)
干潟や岩礁潮間帯にすむウミニナ科腹足類ホソウミニナの稚貝は、腹足部に働く表面張力を利用して、日中の満ち潮時に水面に浮かぶ浮遊行動をすることが知られている。同様の行動は別の腹足類でも知られており、高密度域の回避や分散といった機能の可能性が指摘されている。しかし、ホソウミニナを含めてこれらを検証した例はほとんどない。本研究では、ホソウミニナの生息地点から沖合までの表層で浮遊稚貝の採集を試みることにより、浮遊行動が長距離分散につながる可能性について検証した。
調査は大阪湾内でホソウミニナの分布北限となる男里川河口で、2011年7月から11月の月1回、高潮位時に行った。生息地点から沖合に向かって0m(生息地直上)、100m、200m、500m、1km、2km、3kmの7定点を設定し、各定点の表層でプランクトンネットを5分間曳網し(平均濾水量:33.1m3)、ホソウミニナの浮遊稚貝を採集した(11月は0m地点のみ)。
その結果、浮遊稚貝は7月から10月にかけて採集された。採集されたのは各月を通じて0m地点のみで、沖合100mから3kmの6地点では全く採集されなかった。最も多かったのは7月の19個体/m3で、以降8月:2個体/m3、9月:2個体/m3、10月:0.1個体/m3、11月:0個体/m3と減少した。なお、採集された浮遊稚貝のmtDNA COI領域の塩基配列は、男里川河口の着底幼貝および既知のホソウミニナ黒潮型の配列とほぼ一致した。
これらから、浮遊稚貝が沖合に出ることはほとんどなく、生息地点で浮遊してもごく限られた範囲で再着底しているものと思われる。従って、浮遊行動が長距離分散につながることは極めてまれだろうと推測される。浮遊行動には別の適応的な機能があるのかもしれない。