| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(口頭発表) M2-21 (Oral presentation)
ウグイスガイ上科に属するホウオウガイは、カイメン内に埋まって生活を送る二枚貝である。ホウオウガイは固着性二枚貝が岩盤などに付着するために用いる足糸を完全に失っており、カイメンという特殊な生息環境に完全に適応している。このようにカイメンと密接な関係にあるホウオウガイがカイメンをどのように利用し、またその生活史形質がカイメン埋在生活にどのように適応しているのかということは非常に興味深い。
そこで本研究では、まずホウオウガイの寄主範囲を調べた。その結果、ホウオウガイは非常に寄主特異性が高く、ただ一種のみのカイメンSpongia sp.をホストとして利用していることが明らかになった。更に、採集されたSpongia sp.は全てホウオウガイによって占有されていた。
次にカイメンごとホウオウガイを隔月採集し、カイメン毎の個体群密度および殻のサイズ分布を調べた。その結果、カイメンのバイオマスとホウオウガイの個体数は強く相関していたことから、カイメン内は非常に混み合っており、ホウオウガイの密度は頭打ちになっていると示唆された。殻のサイズ分布を調べた結果からは、ホウオウガイ個体群の中心は定着後1年以内の若い小さな個体で占められていることが明らかになった。9月に幼貝が大量に採集されたことからホウオウガイの新規加入は夏ごろに起こると示唆された。また、それと同時期に前年定着したホウオウガイの死亡率も上昇することも示唆された。
雌雄のサイズ分布を調べた結果、ホウオウガイは雄性先熟であると示唆された。近縁の二枚貝も雄性先熟であることが既に知られている。ホウオウガイは多くが2年以内に死亡してしまうので、ウグイスガイ上科における雄性先熟という性決定様式がカイメンという特殊な環境への進出を果たすために重要な前適応であった可能性が示唆された。