| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-147J (Poster presentation)

イラクサ(<i>Urtica thunbergiana<i/>)の表現型の可塑性:ニホンジカによる被食の影響

*加藤禎孝(奈教大自然環境教育センター),石田清(弘前大 農・生命科学), 菊地淳一(奈教大 教育), 鳥居春己(奈教大自然環境教育センター)

ニホンジカ(以下シカと表記)の採食によって生ずるイラクサの表現型(草丈・葉面積・刺毛数・刺毛密度等)の可塑性の程度を調べるために、シカの生息密度が高い奈良公園内で、防鹿柵の内と外に生育するイラクサの形質の比較を行った。

2006年5月、防鹿柵外で、互いに1~2m離れた場所に生育する実生18個体を任意に選び、2ヶ所の防鹿柵内に9個体ずつ移植した。2010年までに2個体が枯死し、2011年にはさらに1個体が枯死した。柵周辺の同じ環境条件で生育している個体についても、以下のような測定を行い比較した。

2010年7月に草丈・葉面積・刺毛数(葉の表面と裏面の刺毛数の合計)・刺毛長(1枚の葉の表面と裏面から任意に選定した5本の刺毛の平均値)を測定し、刺毛密度も算出した。葉面積・刺毛数・刺毛長については、各個体から生じたすべてのシュートの上端から2節目の葉を1枚とり、サンプルとした。2011年7月と10月には側枝長・草丈・側枝間角度を測定し、この測定値から側枝体幹長比を求めた。

調査の結果、側枝間角度を除き、検討した全ての形質に防鹿柵内と防鹿柵外の個体の間で有意な差が認められ、防鹿柵外の個体については、草丈は低く、刺毛数は多く、刺毛密度は高く、刺毛長は長く、側枝体幹長比は大きくなる等の被食によるイラクサの形質の変化が見られた。

イラクサの刺毛はシカに対する防御形質であり(Kato‹i›et al‹i/›.,2008)、今回の結果は、奈良公園のイラクサ個体群の表現型はシカの採食によって可塑的に変化する形質であることを示唆している。イラクサは可塑性の高い防御形質を持っており、採食圧の程度により防御形質の発現程度を柔軟に変えることで適応度をより高めているものと推定される。


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