| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-150J (Poster presentation)
京都市近郊林ではかつてアカマツやコナラなどの落葉広葉樹が優占していたが、現在ではコジイが優占する常緑広葉樹林へ急速に遷移が進んでいる。ブナ科堅果は森林性ネズミ(以下ネズミ)による二次散布の重要性が指摘されており、遷移の進行にネズミの二次散布が大きく影響している可能性がある。本研究では、都市近郊林の遷移進行に対するネズミの散布行動の影響を解明することを目的とし、京都市市街地北部の宝ヶ池丘陵のアベマキ、コナラが優占する遷移段階中期の落葉広葉樹林と、遷移段階後期のコジイ優占林で2年間にわたりブナ科堅果の発芽試験を行うとともに、ネズミによる堅果の持ち去り試験を行い、二次散布の時期・距離・貯食サイトを調べ、ブナ科実生の分布を解析した。
発芽試験の結果、アベマキ、アラカシは1年目に両林分で大部分が発芽したが、コジイは1年目に約20%、2年目秋期に約40%と2段階の発芽が見られた。コジイは、コジイ優占林では土中、地表ともに高かったが、落葉広葉樹林では地表に蒔きだしたものはほとんどが発芽せず、地中においてのみ有意に高かった。持ち去り試験の結果、コジイの貯食が豊作年翌年の2010年8、9月に落葉広葉樹林で最大となり、コケ下の土中に多く貯食された。平均散布距離は落葉広葉樹林、コジイ優占林でそれぞれ12.9±1.6m、1.0±0.1m(平均±SE)であった。分布解析の結果、コジイ実生は両林分でコケ上に有意に多かった。本研究より、コジイの分布拡大に、ネズミによるコジイのコケ下土中への二次散布がコジイ実生の定着に重要であり、京都市近郊林の遷移進行に大きく貢献していることが示唆された。