| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-154J (Poster presentation)

東京西部山地のシカによる間接効果と土壌流失への影響

*山田穂高(麻布大院), 高槻成紀(麻布大)

ニホンジカが採食により植物に与える影響だけでなく、間接効果として地表徘徊性無脊椎動物と土壌流失に与えている影響を明らかにするために、東京都西部奥多摩で8年前に設置されたシカ排除柵の内外で調査を行った。

植物の出現種数は柵内(41種)が柵外(26種)よりも多かった。植物量の指標となる「バイオマス指数(被度×高さ)」は柵内が柵外よりも約14.4倍多かった。高さ120cm以上の木本は柵内で130本/100㎡だったのに対して、柵外では3.5本/100㎡と非常に大きな違いがあった。これらの結果から、ニホンジカの採食による植物への直接効果が顕著であることがわかった。

ピットフォールトラップ法によって無脊椎動物を捕獲した結果、オサムシ類は柵内で0.11個体/TN(TN:トラップナイト)で、柵外の0.04個体/TNよりも多かった。ヤスデ綱も柵内は0.06個体/TNで、柵外0.01個体/TNよりも多かった。逆にシデムシ科は柵外が0.08個体/TNで柵内が0.06個体/TN、センチコガネ科は柵外が0.35個体/TNで柵内が0.08個体/TN、カマドウマ科は柵外が0.12個体/TNで、柵内が0.06個体/TNと柵外が柵内よりも多かった。オサムシ類とヤスデ綱は植物の豊富な場所が有利であるらしく、シデムシ科とセンチコガネ科はシカの存在がプラスになっているようであった。最低気温と平均気温は柵内外でほとんど違わなかったが、最高気温は柵外で高く、日内の温湿度の変化も柵内で小さかった。これらから、柵内は柵外よりも安定した環境であり、オサムシ類とヤスデ綱が多いのはこれらに関係している可能性がある。平均土壌移動量は柵外で8.04g/日であり、柵内0.11 g/日を大きく上回り、表土流失が大きいことを示していた。

このようにシカの影響は植物を減少させるだけでなく、それによって生息環境が変化することで一部の昆虫を減少させ、表土の流失を大きくしていた。


日本生態学会