| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-038J (Poster presentation)
ブナの分布北限域である黒松内低地帯とその周辺におけるブナ林の種組成と林分構造を明らかにするために,54の調査区を設定し,胸高直径3 cm以上の樹木を対象に毎木調査を行うとともに植物社会学的な植生調査を行った.
各調査区に出現した樹木の相対胸高断面積(RBA)から,大沢ほか(1971)に従い優占種を決定した.その結果,40調査区でブナが第一優占種であったのに対し,残りの14調査区ではブナ以外の落葉広葉樹(主にミズナラ)が第一優占種であった.ブナが第一優占種であった調査区(ブナ林)では,ブナのRBAが何れの調査区でも50%を超えていたのに対し,ブナ以外の落葉広葉樹が第一優占種であった調査区(ミズナラ林)では最大でも30%(1調査区)で,全く出現しないか出現しても9.5%以下(3調査区)であった.
種組成をみると,調査区全体を通じ,チシマザサ-ブナ群集クマイザサ亜群集の標徴種であるクマイザサ,ミズナラ,アズキナシなどが比較的高い頻度で出現していた.植物社会学的な表操作を行った結果,54の調査区は5つの植生単位(2つの群落とその下位単位)に区分された.調査区の種組成と環境要因(気候および立地に関わる11の要因)との間の関係を明らかにするために,正準対応分析(CCA)を行った.その結果,調査区間の種組成の違いは,年平均気温や暖かさの指数など気温に関わる要因,最深積雪深,さらには標高と傾斜にも規定されていた.調査区の分散図上での分布をみると,優占種によってミズナラ林に区分された調査区の多くは,ブナ林に区分された調査区とやや不連続に配置され相対的に温暖な立地に分布していた.一方,ブナ林に区分された調査区の種組成は,標高と斜面の傾斜,および最大積雪深によって規定されていた.
引用文献:大沢雅彦ほか.1971.富士山における垂直分布帯の形成過程.「富士山」(津屋弘達ほか編),371-421,富士急行,東京.