| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-085J (Poster presentation)
微生物の地理的分布は、その巨大な個体群サイズや高い分散速度といった特徴から、慣例的に局所的な環境要因によって制限されると考えられてきた。しかし、近年の研究から、微生物の地理的分布は必ずしも環境要因だけで規定されないことが認識されつつある。したがって、微生物の地理的分布にどのような規則性が存在するのかを明らかにするためには、環境フィルタリング、分散制限、地理的障壁、進化履歴などのさまざまなプロセスの影響について検証する必要がある。そこで、本研究では2005年と2006年に調査した東日本に位置する41湖沼の環境および空間要因のデータと、分子手法により検出した微生物(真正細菌)群集の系統情報を用いて、微生物の地理的分布とその制限要因を解明した。
まず、分類群構成における環境および空間効果の相対的重要性を解析した結果、寄与率はどちらも低いが互いに近い値を示しており、群集の形成過程において環境および空間プロセスはそれぞれ同程度の重要性を持つことが示唆された。次に、群集間非類似度-距離関係を解析した結果、分類群の在-不在データを用いた場合に空間効果の有意性が示されており、各分類群の地理的分布において分散制限が寄与している可能性が示唆された。さらに、地理的障壁(津軽海峡)に基づいて調査湖沼を北海道と本州の2地域に分割し、群集の非類似性に対する地理的障害の歴史効果について解析した結果、地域間における差異は認められなかった。最後に、系統情報に基づいて、各湖沼における群集の進化履歴と地理的要因との関係を解析した結果、系統的多様性と湖沼面積の間に有意な正の相関があり、地理的要因は進化的なスケールで群集の多様性形成に寄与していることが示唆された。これらの結果から、環境フィルタリング、分散制限、進化履歴が微生物の地理的分布に影響を及ぼしていることが明らかになった。