| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-089J (Poster presentation)

温泉微生物マット中の細菌の種間相互作用:プロテアーゼ産生菌による溶菌と運動性促進

諸星聖,*松浦克美,春田伸(首都大・生命)

長野県中房温泉では,高温流水下に“数mmの厚さの微生物群集”=バイオマットが発達している.65℃のバイオマット中では光合成細菌Chloroflexus aggregansが優占しFervidobacterium属やThermus属細菌など栄養様式の異なる細菌が混在している.これらの細菌の種間相互作用に注目して種々の実験をしたところ,C.aggregansの運動性がMeiothermus sp.及びBacillus licheniformisの培養上清の添加で促進された.本研究ではこれらの分離株が放出する運動促進物質を明らかにすることを目的とした.

運動促進物質は熱処理すると活性を失い,限外濾過により分画した結果,分子量10,000以上の物質であると考えられた.運動促進株の菌体外酵素活性を調べると,全てにおいてプロテアーゼ活性が検出された.そこで培養上清にプロテアーゼ阻害剤PMSFを添加したところ,促進効果は抑制された.促進効果は,市販のプロテアーゼ(B. licheniformis由来)でも確認された.以上から,分離株から分泌されるプロテアーゼによってC.aggregansの滑走運動が促進されると考えられた.また,高濃度の同プロテアーゼの添加によりC.aggregansは溶菌した.

本研究により,他菌の生産するプロテアーゼが細菌の運動性を促進する場合があることがわかった.プロテアーゼによる溶菌は,プロテアーゼ生産菌がC.aggregansの生細胞を“捕食”している可能性を示唆する.また,C.aggregansは捕食から逃れるため,プロテアーゼを感知して運動性を向上させて逃避している可能性がある.細菌界において,プロテアーゼ生産菌及び運動性を持つ細菌は多いことから,“プロテアーゼを介した捕食と逃避行動”はかなり広範に存在するかもしれない.


日本生態学会