| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-232J (Poster presentation)
北海道固有の小型サンショウウオであるエゾサンショウウオHynobius retardatusはこれまで進化生態学の好材料として研究され、近年は保全の対象としても注目されつつある。本研究は、エゾサンショウウオの全生息地を対象に遺伝的な個体群構造を解明して、本種の歴史を明らかにすることはもとより、進化生態や保全の研究に有用な情報を提供することを目的とした。北海道全域の28地点から標本を採取し、ミトコンドリアDNA調節領域の部分塩基配列を解析した結果、道央+道北+道東、えりも、道南の地理的に明確な3グループとして分かれた。グループの分化は百万年前以降に起こっており、種の成立(850万年~4000万年前と推定)よりもずっと後であることが示唆された。これは、北海道が成立した地殻変動や、激しい気候変動によって、種分化後に強いボトルネックを経験したことを反映していると思われる。また、グループの分化には間氷期の海面上昇や火山活動などが影響していると考えられた。石狩—勇払低地帯を境界とする分化が現在まで維持されてきた機構については、サンショウウオ幼生の捕食者が生息するような河川や池沼などの連続的な水系が、分散の障壁となってきた可能性が浮かび上がった。本研究では、このように、水系に依存して繁殖する両生類に対して、規模の大きい水系は逆に分散の障壁となり、その障壁は進化的な時間レベルで見ても継続している可能性が高いということを発見した点に大きな意義がある。