| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-238J (Poster presentation)
ヌマムツNipponocypris sieboldii(コイ科,以下本種)は,従来,カワムツのA型として扱われてきたが,2003年に独立種とされた.本種は主として西日本に分布し,大阪府RDBでは絶滅危惧Ⅰ類に掲載されている.本研究では,大阪府におけるヌマムツの保全方策を検討するための基礎的な知見を得るため,野外調査と採集を行い,得られた個体を用いてDNA解析を行った.調査は2011年3~12月に,大阪府と周辺府県の河川で,主としてすくい採りによって行った.その結果,調査を行った大阪府の11市町村10水系25ヶ所のうち,堺市5カ所(石津川水系,大和川水系),高槻市1カ所,枚方市1カ所(ともに淀川水系)の7カ所のみで本種の生息を確認した.また,京都府2カ所(淀川水系,由良川水系),兵庫県2カ所(武庫川水系,明石川水系),滋賀県(淀川水系),奈良県(大和川水系),和歌山県(紀ノ川水系)各1カ所においても本種の生息を確認し,採集を行った.確認された生息地の多くは,河川の中流から上流域で,コンクリートで護岸された流れの緩やかな場所で個体数が多い傾向が見られた.一方,カワムツは21ヶ所で見られ,両種が同所的に生息していたのは3ヶ所であった.遺伝子解析は,大阪府72個体と周辺府県の58個体からDNAを抽出し,ミトコンドリアDNAのCyt b領域(1,152bp)の配列を決定して比較した.その結果,19塩基対に変異が認められ,全体で30ハプロタイプが,大阪府のみでは17ハプロタイプが確認された.河川や支流ごとに固有の変異が認められ,異なる水系間では分化が大きい傾向が認められた.
以上の結果から,大阪府における本種の生息地は少なく,3つの水系に限られていた.また,支流ごとに遺伝的な分化が見られた地点もあり,遺伝的交流の範囲は比較的狭いことが示唆された.