| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-244J (Poster presentation)
オトシブミの揺籃は1枚の葉で作られる。揺籃の機能としては、捕食や寄生回避が指摘されているが、そのためには、揺籃の外壁部分は成虫になるまで維持されなければならず、幼虫が餌として利用できる部分は1枚の葉のさらに一部に制限される。このように、栄養学的にはオトシブミ幼虫はきわめて厳しい条件にあり、とりわけ窒素の不足が危惧される。そこで、この研究では、栄養生態学的観点から揺籃内での栄養動態について検討した。
研究に用いたエゴツルクビオトシブミCycnotrachelus roelofsiは、エゴノキとハクウンボクのみを食草とする狭食性の昆虫である。今回の実験ではエゴノキに形成された揺籃のみを用いた。
今回の実験においてオトシブミは、成虫になるまでにエゴノキの1枚の葉の面積にして約30%を摂食していた。葉のLMAと摂食面積から摂食量を求め、オトシブミの成長効率を
成長効率(%) = オトシブミ新成虫の乾燥重量(mg) ÷揺籃摂食量(mg)
として求めた値は7.20±1.06%となった。また同様の個体を元素分析し、成長効率を求めた結果、炭素については6.58±0.95%、窒素では29.3±4.77%となった。
さらに、エゴノキの生葉、成虫脱出後の揺籃残渣、蛹、羽化直後のオトシブミ成虫について安定同位体分析を行った。エゴノキ生葉—オトシブミ成虫間での窒素同位体比の濃縮係数は-0.02±1.52であり、通常の濃縮係数3.4と比べて、きわめて低かった。このことは空中窒素の固定を強く示唆するものであるが、今のところ、窒素固定細菌の存在を示す証拠は得られていない。炭素の濃縮係数は3.61±1.76と通常の濃縮係数に比べてきわめて高かった。揺籃を展開して幼虫を飼育した場合、幼虫が自分の糞を頻繁に摂食していることが観察されたことから揺籃内でも糞食を行っていると考えられ、糞食の影響で炭素の濃縮係数が高くなった可能性が考えられる。