| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-250J (Poster presentation)
本研究の目的は,野生生物にストレスを与えず,かつ個体数の少ない稀少生物の動態調査に最適な研究手法である糞由来のDNA解析法を用いて,北海道南部渡島地域に生息するキタキツネの生息状況調査を3年間行い,その動態をモニタリングすることである.また,渡島各地に分布するキタキツネの遺伝構造にも着目し,その系統解析も行った.道南においてキタキツネの詳細な分布や密度などの生態学的調査が行われた例はない.また,函館市の南西に位置する函館山は,周囲が約9 kmと面積が極めて小さく,周りが海と市街地に囲まれ孤立した自然環境である.その生態系は,キタキツネを食物ピラミッドの頂点として成り立っているとされているが,過去に函館山の哺乳類に関して科学的見地から詳細な調査は行われていない.函館山のような閉鎖個体群において個体数推定を行うことは保全生態学上意義のあることである.サンプルの採集は,函館山を中心に渡島半島域を対象とし,期間は2009年から2011年までの3年間継続し,141回のサンプリングで計292個の中型哺乳類種の糞を採集した.キタキツネに特異的なプライマーを用いて種判別を行った結果,うち165個がキタキツネと判別された.その他は,ホンドテンが30個,イエネコが13個,エゾタヌキが4個,アメリカミンク2個となった.種判別率は70%を超えている.函館山とその他の渡島地域におけるキタキツネの遺伝構造の地域間比較を行うために,ミトコンドリアDNAのD-loopの部分領域567 bpの塩基配列を決定した.また,個体数推定には,15 種のマイクロサテライトマーカーを用いて個体識別も試みた.これら3年間の調査結果からキタキツネに関する分布・個体密度の経年変化等の動態をモニタリングするとともに,渡島地域に生息する個体群の遺伝構造を解明する.