| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-251J (Poster presentation)
自然界には干ばつ、洪水、地滑り等の環境攪乱のリスクを避ける理由で拡散する生物が存在する。しかし拡散は移住先が生息に適した土地でないリスクや移住のためのコストを伴う。こういったデメリットがあるものの、環境攪乱は長距離拡散型移住を促す。しかし実際には、環境攪乱下でも長距離拡散を行わない生物が存在する。例えばイタドリなどの植物やサンゴ、何種かのアリなどが挙げられる。一般にアリの場合、そのコロニーは長距離移動(結婚飛行)をした女王アリによって形成される。その一方で、結婚飛行をせず、多数の女王アリがコロニーを分割する形で新しくコロニーを形成するアリも存在する。環境攪乱下では長距離拡散は進化的に安定な戦略であるものの、この短距離拡散を行う種も新生育地でのコロニー形成に成功している。
こういったコロニー形成を伴うアリの拡散を実験的に行うことは困難なので、二次元空間モデルを用いた研究もなされてきた。これによると、攪乱頻度が大きくかつ小規模なコロニーの死亡率が非常に大きいとき、短距離拡散が有利となることがわかっている。しかし既存の研究はコロニー間の闘争を取り入れていなかった。実際の自然界では、アリは同種でも異なるコロニーの個体間は排他的で激しく闘争する。
よって本研究はコロニー間の闘争を加味したモデルを通して、より精細な知見を得ることを目的とする。そのためにコロニーの勝率に着目して、拡散先にコロニーが存在する場合に発生する闘争を研究し、勝率がコロニーにサイズ依存、あるいは非依存な場合の結果を比較した。今回はまず環境攪乱がない状況で計算した。その結果、短距離移動が有利となるためには、より大きなコロニーが勝利する条件、ランダムに勝敗が決定する条件、移動してきたコロニーが勝利する条件ではなく、もともと存在するコロニーが勝利するという条件であることが示された。