| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-252J (Poster presentation)
タナイス目甲殻類はフクロエビ上目に属する体長数ミリ程度の小型底生動物である.メスは胸部腹面に覆卵葉という膜状構造からなる育房を持ち,その中で卵をマンカ幼体と呼ばれる段階まで保育する.覆卵葉は複数回の脱皮を経ることで完成した育房となり,抱卵が起きる.その後マンカ幼体が放出され,メスは覆卵葉を失うが,脱皮を繰り返して新しい覆卵葉を発達させ,再び抱卵するとされる.しかし,野外における生活史が明らかにされている種は極めて限られている.
本研究では,北海道忍路湾の海藻上で生活するタナイス類の一種,Zeuxo sp.の生活史解明を目的とし,2011年4月から12月まで月に一度の調査を行った.本種は,1980年の夏期(5月〜7月)に行われた先行研究で次の特徴を示すことが指摘されている(早川, 未発表):1) 抱卵個体は5月から7月まで存在した,2) マンカ幼体は6月から7月まで存在した,3) 抱卵個体には,少数の大型の個体と,相対的に小型の個体が存在した,4) 大型個体は6月終わりに消失した,5) 大型個体は2回抱卵(飼育環境下)した.晩春から冬期にわたる今回の調査の結果は早川の研究結果と基本的に一致しているが,繁殖期はより長期にわたり,抱卵個体は5月から10月に,マンカ幼体は6月から10月に確認された.これらの研究結果に形態計測の結果もあわせて考察すると,本種は原則として年2世代を経過し,越冬世代とそれによって産出された世代(F1世代)が繁殖を行うものと考えられる.F2世代は繁殖を行わずに越冬し,翌春に繁殖を行うのであろう.ただし,早い時期に繁殖して姿を消す大型の越冬個体は前年のF1世代のうち繁殖に参加しなかった個体が越冬したものである可能性がある.