| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-177J (Poster presentation)

サラシナショウマの3生態型間の遺伝的分化の検証ーAFLPと核DNA系統樹を用いてー

*楠目晴花(信州大院・工・生物),絹田将也,市野隆雄(信州大・生物)

サラシナショウマCimicifuga simplex(キンポウゲ科)は生態的な特徴(分布、花期、花の香りなど)からTypeI、TypeII、TypeIIIの3つのタイプに分けられる(Pellmyr 1986)。TypeIは高標高地に生育する大型のタイプで、マルハナバチ類などを主な送粉者としており、8月半ばから9月半ばまで開花する。TypeIIは中標高地以下の林縁に生育する大型のタイプで、花は強い芳香を放ちチョウ類やマルハナバチ類を送粉者としている。8月の終わりから10月の初めまで花を咲かせる。TypeIIIは低〜中標高地の暗い林床に生育する小型のタイプで、ハナアブ類やマルハナバチ類を送粉者としており、9月の半ばから10月半ばまで開花する。生殖隔離をもたらすようなこれらの形質における差異はタイプごとの遺伝的分化を示唆する。しかし、遺伝的分化の実態については明らかになっていない。

そこで本研究では、核リボソームDNAのITS領域に基づいた系統解析とAFLP解析の2つの方法を用いてサラシナショウマの遺伝的分化を検証した。その結果、系統樹ではTypeIIの系統とTypeI+IIIの系統が分かれた。しかし、TypeIとIIIの間での遺伝的分化を確定することはできなかった。一方、AFLPの主座標分析の結果、TypeI、II、IIIは散布図上でそれぞれはっきりと分かれ、TypeIとIIIの間でも、遺伝子流動が制限されていることが明らかになった。

以上のことから、サラシナショウマは生態的・遺伝的に分化した3つのタイプがあることが判明した。特にTypeIIと他の2タイプの間には分布や開花時期の重複がみられるにも関わらず遺伝的な分化が確認されたことから、TypeIIと他のタイプとの間には交配後隔離が成立している可能性が示唆された。


日本生態学会