| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-200J (Poster presentation)

山地渓流域の食物連鎖長: 決定機構に果たす生産性の役割

*冨樫博幸,徳地直子(京大・フィールド研), 陀安一郎(京大・生態研)

食物網の構造決定機構を明らかにしたこれまでの研究は,一次生産性や撹乱,及び生態系サイズの重要性について明らかにしてきた.しかし,いずれも理論研究が先行し,野外でこれらの影響を検証した知見は非常に少ない.その理由の1つは,湖沼などの従来対象としてきた生態系区分では,気象や地質など他の要因を統一することが不可能であり,また多数の生態系を同時に扱うことが困難なことがあげられる.

奈良県南部の護摩壇山試験地(標高860-1370m)は集水域単位で皆伐施業が行われ,集水域ごとに林齢の異なるスギ人工林において形成されている.試験地内には30以上の渓流が存在し,Fukushima & Tokuchi (2009)らの研究によって,渓流水の硝酸濃度などは林齢に伴って減少することが分かっている.そこで本研究では,渓流に生息する水生昆虫を対象に,食物網の構造決定に果たす一次生産性の役割を明らかにすることを目的として行った.調査は2011年10月と12月の2回,林齢の異なる5・12・23・38・49年生,及び天然林(90年生)の6渓流を選んで行った.得られた各試料は安定同位体比を分析することにより,食物網構造を明らかにした.

試験地で生息していた水生昆虫は35分類で,その種組成や生物量は各渓流によって大きく異なっていた.Shannon-Wiener のH’により多様性を比較したところ,5年生の渓流で最も多様性が高いことが明らかとなった.これらの結果は,林齢に伴う生産性の違いが群集構造の決定に影響を及ぼしていることを示唆している.また,発表では栄養段階や食物連鎖の長さといった食物網構造と一次生産性との関係についても議論する.


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