| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-202J (Poster presentation)

渓流性底生動物グレーザーの二次生産に対する藻類とデトリタスの相対的貢献度の季節変化

*田村繁明(東大・農),加賀谷隆(東大院・農学生命)

石面付着物は,森林河川の食物網の主要な基礎資源の一つであり,グレイザーと呼ばれる底生動物により摂食される.石面付着物には藻類とデトリタスが含まれるため,グレイザーは生食,腐食の両連鎖に関わる.森林河川における食物網動態を理解する上で,グレイザーを介したエネルギーフローに対するこれらの相対的貢献度とその季節変化を明らかにすることは重要である.温帯では,一般にグレイザーの二次生産は春にピークとなる一山型の季節変化を示す.一方,藻類のグレイザー生産に対する相対的貢献度は,春から秋にデトリタスのそれを上回り,夏に最大となる一山型の季節変化をするというモデル(Mihuc, 1997)が示されている.このモデルにしたがえば,グレイザーの生産ピークでは比較的藻類の貢献度が高く,グレイザーを介したエネルギーフローにおいては生食連鎖が卓越すると予測される.しかしながら,グレイザー生産に対する藻類の貢献度の季節変化に関する情報は乏しい.また,炭素安定同位体比分析による藻類の貢献度推定には,組織における同位体の回転速度が不明確であるという問題がある.本研究では,多摩川水系の二次河川の瀬における採集調査に基づき,10種以上のグレイザーについて二次生産を瞬間成長速度法によって,またそれに対する藻類とデトリタスの相対的貢献度を消化管内容物分析によって推定した.

グレイザー全体の年間生産量は294 mg DW•m-2,それに対する藻類の貢献度は62%と推定された.日生産量は春に最大で秋に最小となる一山型,藻類の貢献度は夏と冬に大きく,秋と春に小さい二山型の季節変化を示した.春(3〜5月)の藻類の貢献度は50%程度であった.したがって,温帯の森林河川食物網において,グレイザーを介した腐食連鎖のエネルギーフローの重要性は大きいことが示された.


日本生態学会