| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-210J (Poster presentation)
生物体を構成する有機物の炭素、窒素安定同位体比は捕食に従って特定の割合で高くなることが知られ、生物の食性や栄養段階の解析に広く用いられている。また近年では、ガスクロマトグラフ/燃焼/同位体比質量分析計(GC/C/IRMS)を用いて生体内のアミノ酸(グルタミン酸とフェニルアラニン)の窒素安定同位体比を測定・比較することによる栄養段階の推定法が開発されている。本研究では海産の貝食性巻貝(タマガイ)と草食性巻貝(モクレンタマガイ)をモデルとし、アミノ酸の窒素安定同位体比から推定される栄養段階を軟組織と硬組織(貝殻)中の有機物とで比較することを目的とした。軟体部と貝殻内有機物のアミノ酸の同位体比から推定された栄養段階はモクレンタマガイでそれぞれ1.7と1.8、タマガイで2.3と2.2で、両値はほぼ一致した。これにより、化石としても保存される可能性のある殻内有機物から栄養段階を推定できる根拠を得た。しかし、二次~高次消費者(栄養段階=3以上)であるはずのタマガイの栄養段階が低く推定された。タマガイ類が一次消費者より直接栄養を得ていないことを確かめるため、13Cでラベルした微細藻類中で飼育実験を行った。コントロールとして導入した濾過食二枚貝が数週間の飼育期間中に微細藻類から栄養を得て13Cラベルされた(炭素安定同位体比が40‰近く高くなった)のに対し、タマガイ類および腐肉食巻貝では13Cの顕著な取り込みは見られなかった。一方、アサリを餌として長期間飼育したタマガイ類のアミノ酸の窒素安定同位体比による推定栄養段階はアサリより約1段階高いという妥当な結果となり、タマガイ類の低い栄養段階は自然状態での食性に原因があることが示唆された。