| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-255J (Poster presentation)
釧路湿原では近年、植生など自然環境が変わりつつあり、湿原内外の開発行為が原因の一つではないかと指摘されている。低温、高水分の環境下で有機物が蓄積する湿原泥炭地では、元来、枯死植物の分解にともなう栄養塩の循環が抑制された環境にあり、この様な環境下では湿原外からの栄養塩の流入は植生に大きな影響を及ぼす一方、流入の少ない条件では枯死植物体の分解・無機化は植生を維持する上で重要な生態系機能となっていると思われる。そのため、発表者らは土砂・栄養塩の流入と土壌無機化活性、植物体成分の関係について調査を継続して行っている。
【調査地・方法】釧路湿原右岸堤防および赤沼周辺の11地点(ハンノキ林、低層湿原および高層湿原)において調査を行い、湿原表面水水質、表層土壌理化学性(C、N、P含量、強熱損量)、グルコシダーゼ活性(GLU)、フォスファターゼ活性(PA)、植物体の地上部現存量および成分含量などを測定した。
【結果】湿原表面水中のCa、Mg、Si濃度は夏季には堤防に近い地点で高く、堤防からの流入が示唆された。一方、春季には赤沼付近でCa、Mgが高い傾向にあり、融雪・増水期には赤沼側からの流入が考えられた。土壌中の無機態リン(IP)含量は堤防付近で高く、赤沼周辺でもやや高い傾向にあった。PAおよびGLU活性は堤防付近で高かったが、2つの酵素活性の比(PA/GLU)は赤沼および堤防付近で低く、IP含量の低い地点では土壌微生物は積極的にリンを無機化することによってIPを補っていると考えられた。植物体中のCa、Fe含量は堤防付近で高い傾向にあったが、P含量は赤沼および堤防付近以外の地点では土壌中IP含量と同じく低い傾向にあった。
これらの結果から、土砂や栄養塩の流入の少ない地点ではIPが制限因子として植物の生育を抑制していること、および、PA/GLU比がリン制限の指標となりうる可能性が示唆された。