| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-259J (Poster presentation)
近年のニホンジカ(以下、シカ)の増加は森林植生や生態系への被害だけでなく、土壌流出により国土の保全機能としての水源まで喪失させる可能性があり、人間の生活に大きな影響を与えるおそれがある。丹沢山地のやどりき水源林(529ha)は神奈川県の水源林の一つであり、そこに生息するシカの生息地利用を把握して必要な対策を取ることは、水源林を適切に保全する上で重要である。そこで、本調査では、やどりき水源林に生息するシカにGPS発信器を装着し、水源林内の利用状況を把握することを目的に行った。
GPS発信器装着のための捕獲は2008~2011年にやどりき水源林内において実施し、これまでにオス1頭、メス8頭の合計9頭の個体にGPS発信器を装着した。GPS発信器を装着した9頭の内7ヶ月以上追跡できた個体は5頭であり、その他の1頭は個体数調整により駆除され、3頭は発信器の異常で追跡期間が極端に短くなっていた。7ヶ月以上追跡できた5個体のGPSデータの取得率は3Dが81.0±21.2%、2Dが13.4±15.6%、未取得が5.7±5.6%であった。取得された全個体の位置データ(29,249点)の内、64%(18,835点)が水源林を利用していた。水源林の外側を利用した個体の内、長距離移動を行った個体は水源林流域下流にある集落やゴルフ場の近くを利用していた。もう1頭は水源林の北側にある沢を10ヶ月程度利用していたが、水源林からの距離は1.5km程度であった。これらのことから、これまでに追跡した個体の多くは定着性を示すことがわかった。
2010年11月までに捕獲された5個体(オス1頭、メス4頭)について地形や植生などの生息地利用を調べた結果では、日中は急傾斜地を、夜間は緩傾斜を利用する傾向が共通してみられたが、斜面方位や植生では個体ごとに選好する環境が異なり、個体差が大きくなっていた。