| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-270J (Poster presentation)
かつての滋賀県湖東地域の森林は木質燃料の生産のために定期的に伐採され雑木林として日常的に利用されていた。しかし1960年代の燃料革命を機に木質燃料が経済的な価値を損失し雑木林は現在では放置されている。
このような雑木林の管理の放棄は林床の植物相の低下、貧弱化を招くと指摘されてきた。
一方、伝統的な管理を再開することで減少した種の回復、消滅した林床植物種の回復が期待できると考えるのは禁物である。これまでの伝統的管理は農業資源の需要に応じた手法・スケジュールであり必ずしも現在の雑木林の生物多様性保全の活動とは一致しないと指摘されている。
他方、近年行われている雑木林の伝統的な管理に関する研究は、多くの場合ヒアリングを主な手法としてきた。
本研究の研究対象である薪炭林は里山を代表する利用方法の一つである。かつての薪炭林は炭材を広域的に集材していたと考えるのは難しく、炭窯周辺の林の比較的狭い範囲から集材していたと考えられ、伐採強度などに空間的なモザイクが生じていたと考えられる。
そこで本研究ではこうした空間パターンを明らかにすることを目的とし、GISを用いて炭窯の配置、その分布特性、集材範囲を調べ、薪炭林利用の実態を空間的・定量的に明らかにしようとした。
まず聞き取り調査と炭窯の位置情報から炭窯の分布に寄与している要因の内容と程度を明らかにした。さらにモデル解析を行い炭窯の分布可能性をGISで可視化した。
その結果、炭窯の分布に対しては傾斜角度が正の影響を、集落からの距離が負の影響を示した。また可視化した図において50%以上の値を示した合計面積は238haであった。聞き取り調査から対象地域での薪炭林利用面積は年間2~6haであり、木炭生産は年間54~90tであった。
今後、炭窯分布可能性図と実際の伐採強度、統計データなどから当時行われていた薪炭林利用の実態をさらに検討したい。