| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-322J (Poster presentation)
科学技術政策の課題として,科学技術の成果をわかりやすく社会に伝えることが挙げられ,社会と科学技術との関わりを一層深めるための努力が求められている。豊かな自然環境を有する地域の多くは観光地であるため,専門の観光ガイド(以下,ガイド)によって自然環境についての解説が行われている。一方で,このような地域で多くの研究活動がなされており,観光を通じて研究成果を伝えることができれば重要な科学技術コミュニケーションの機会となりうる。しかし,当該地域において,研究活動から得られた知見がどのように観光を通じて伝えられているのかは分かっていない。
本研究は,観光地における研究者の役割と研究成果の普及状況を明らかにするため,東京都小笠原村父島にて研究者とガイドに対するアンケート及びインタビュー調査を行なった。父島におけるガイドと研究者の接点を類型化したところ,父島においては主に1)研究成果の報告,2)調査・外来種駆除作業(以下,調査業),3)講習会,4)ルール策定の4つの場面があることが明らかになった.これらの中でも,調査業は,現場で学術的研究に直接触れ,ガイドと研究者の間のコミュニケーションを可能にする機会として重要であった.次に,研究成果や研究者に対するガイドの意識を分析したところ,ガイドは接点の場によらず,研究成果が解説をする上で重要であると評価していた.一方,調査業で研究者と付き合いがあるガイドは,付き合いがないガイドと比べ,観光業の発展においても研究者の必要性を強く感じており,調査研究活動が観光振興において重要な役割を担うと考えていた.
今後,観光を通じた科学技術コミュニケーションを促進するためには,研究者とガイドの接点の場を確保することが必要で,さらに,研究者とガイドが協働しながら観光地の調査研究活動を行うことで,ガイド自らが科学技術コミュニケーションの重要な担い手になりうる可能性がある。