| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-324J (Poster presentation)
昆虫採集は、かつては多くの子どもたちを虜にした「趣味の王様」だった。しかし現在では、一部の大人がたしなむ高尚な趣味という印象が強い。
卒論で初めて研究の世界へ足を踏み入れるとき、図鑑を頼りに形態だけで種を識別し、分布するはずの無い種名を口にする人がいる。また、生態学では一年で一時期しかデータを取るチャンスは無いが、発生時期も知らぬまま、たった1回でデータが取れると考えてしまう人もいる。研究には、その下地として、実際に野生の姿を知ることが非常に重要である。しかし、生態に関する知見が圧倒的に不足したまま卒論を迎える人も少なくない。
新潟県では、高度経済成長の中で多くの地域住民が農林水産業から離れ、サラリーマン化していった。しかし、かつての農村では子どもたちが農作業を手伝ったり、山菜を採りに行ったりする中で生物の名前を覚えていった。生物を知る大人が身近なところにいて、今でいう環境教育が日常的に行われていた。日本社会には自然の中で遊ぶ「文化」があり、その中で育った人材が高度経済成長期の社会を支えていた。しかし、大きな変化を経て、その文化が子どもたちの中から急速に失われていった。家庭用ゲーム機の普及もあり、子どもたちの娯楽も大きく変化してきている。けれども、「善し悪し」という問題は、人間の価値観に基づいて判断されるもので、こういった問題には、科学は答えを出すことができない。
ただ、その一方で、科学が人間の価値判断に対して大きな影響を与えることも事実である。長岡市立科学博物館では開館以来、毎年児童生徒の生物標本コンテストを実施し続けてきた。第60回を迎えた2011年は、記念事業として、毎年の出品者数や出品経験者の体験談など、過去60年の記録をまとめ上げた。60年間での出品者数の減少と、その背景に映し出された社会の変化は、ただノスタルジーに浸るのではなく、客観的に社会を比較するための一つの指標として、参考になるかもしれない。