| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-HS14J (Poster presentation)
ツマグロヒョウモンは東洋熱帯を中心に広い分布域を持つタテハチョウ科のチョウである。日本では大阪府以南と東海から関東の太平洋岸の一部の県に生息するのみであったが、近年分布北限を北上させており、東北地方でも確認されている。これらの分布拡大は、温暖化の影響とされることが多いが、本種自体が寒冷地への適応を獲得したことも否定できない。そこで、台湾産と京都産の本種を、さまざまな温度条件下で飼育し、発育ゼロ点や有効積算温度などをもとめ、比較した。その結果、発育ゼロ点には京都産は6.2℃、台湾産は13.0℃と大きな違いがあることがわかった。発育速度は、京都産が台湾産より早く、体長や前翅長も小さい傾向があった。このことは、低温でも多くの世代をくり返すことができることを意味するとともに、分布北限において寒冷への適応がなされていることを示す。また、冬期の屋外における野生幼虫の状況などから、一定の越冬態を持たないにもかかわらず、発育ゼロ点以下の低温に対して抵抗性のあることがわかった。今後、沖縄産、九州産などの飼育によって、本種の分布北限における適応戦略を明らかにしていきたい。