| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T01-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
生態系がつかさどる物質循環のプロセスは、二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素など温室効果ガスの生成や吸収を大規模に行っているため、地球温暖化の進行に大きな影響を及ぼす。よって、気候変動に対する生態系の応答の予測精度を向上させることは、地球温暖化の研究の進展と今後の社会・政治・経済の気候変動への適応のために非常に重要である。しかし、気候変動を全球規模でシミュレーションする地球システムモデルでは、陸域生態系の応答のモデル化が不十分なため、温暖化の将来予測には大きな不確実性を伴っている。陸域生態系の中でも特に土壌生態系のプロセスには未解明な部分が多い。土壌有機物の分解など物質循環プロセスを担うのはミクロな微生物のため、シミュレーションモデル内での生理特性などはこれまでブラックボックスとして扱われてきた。このような土壌内のプロセスを明示的に再現するシミュレーションモデルの開発が進めば、気候変動の研究の進展への大きな一歩になるだろう。
土壌の物質循環プロセスをシミュレーションするために必要な要素を挙げるなら、(1)微生物の活動する環境を的確に再現することと、(2)微生物の生理特性・群集構造などのディテールをモデル化することであろう。前者は、微生物活性を決定付ける土壌環境の物理条件(温度や水分量)や有機物の質や量の分布の解明である。微生物の活動するミクロの視点で見ると、土壌は非常に不均質な環境である。どの深さにどのような有機物が分布し、その場所の物理環境が微生物の活動にどの程度適しているか。このような条件を明示的に再現するモデルの開発は現在進行中である。後者は、現在はブラックボックスである微生物のダイナミクスを明らかにすることによって環境の変化に対する応答を解明するもので、研究の進展が待ち望まれている。