| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T01-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

分野横断プロジェクトでブラックボックスに挑む: 空前の規模のネットワーク情報は生態学に何をもたらすか?

東樹宏和(京大・次世代)

地下の生態系は、生態学における巨大なブラックボックスである。一握りの土の中からでさえ、細菌や真菌、線虫、節足動物の無数の種がひしめいている。微生物が主役の地下の世界は、多くの生物を肉眼で観察できる地上の世界と多くの面で異なる。計り知れない多様性と直接観察の難しさにより、地下で繰り広げられる生物たちの相互作用は、その全体像を解明しようという試みを阻み続けて来た。

いっぽうで、生物多様性の喪失や地球温暖化が深刻さを増すなか、地下生態系はますますその重要性を認知されるようになってきた。自然界において、ほとんどの植物種は、菌根菌との共生なしに生きていくことはできない。この共生系を通じて、純光合成生産量の20~40%にあたる量が菌根菌へと流れていると言われており、地球規模の炭素循環を考える上で、植物と真菌を軸とした地下生態系の動態を解き明かすことが求められている。

講演者は、分野横断型の研究プロジェクトを通じて、次世代シーケンシングとネットワーク理論を融合させることにより、地下生態系の生物間ネットワークを一挙に解明する手法の開発に成功した。この新手法を用いれば、数日程度の野外調査(とそれなりに大変な次世代シーケンシング)を基礎として、数十種の植物と数百種の真菌の相互作用ネットワークを解明することができる。この解析をもとにして、地下の共生系を介した植物群集の動態を予測し、さらに、生態系全体の頑健性を評価することができる。現在、群集生態学、進化生態学、生理生態学の観点から、生態系復元や農業生態系の設計における新たな科学研究の方向性を模索している。本発表を通じ、広範な環境科学において、基礎生態学がフロンティアを提供し得ることを示したい。


日本生態学会