| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T04-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
日本の主要な農地景観である水田地帯は、湿地的環境と稲作による人為攪乱に依存した水湿生植物のハビタットとして、2000年以上に渡り重要な役割を果たしてきた。しかし、低地平野部の水田地帯においては、1950年代に推し進められた画一的な圃場整備(乾田化)と農薬の普及により、それまでは普通に見られた水湿生植物が急激に減少し、多くの種が絶滅の危機に瀕する事態となった。一方、近年の米需要の低下と農家の高齢化に伴い、低地平野部においても耕作放棄水田が増加してきており、耕作水田とは異なる種組成の群落が形成されてきている。以上のように、この半世紀で、低地水田地帯は景観構造・環境の質・種組成の全ての面で大きく変化した。
1990年代以降、水田地帯の水湿生植物のハビタットとしての機能を見直し、保全する機運が高まってきているが、注目されるのは圃場整備が行き届かなかったような(湿地として良好な環境が維持されている)中山間地の圃場が主である。先述のような環境改変を経た低地水田地帯は、水湿生植物の保全には役に立たない場だと考えられてきたため、その種多様性の評価や、それについて景観要素間(耕作水田・放棄水田)で比較を行った研究はほとんどない。
今後、水湿生植物をより効率的に保全していくためには、低地水田地帯ができるだけ多くの種にとってのハビタットとして機能することが望ましい。本発表では、越後平野の水田地帯における耕作水田と放棄水田について、(1)各景観要素における水湿生植物の種多様性(α、β、γ)、及び(2)景観要素間での種多様性の相補性、を評価・解析した結果を紹介し、低地水田地帯における水湿生植物の保全の方向性について議論する。