| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T04-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
愛知ターゲットをはじめとする生物多様性保全の国際公約の下、適切な保護区設定についての議論が増加している。しかし、沿岸域では生物の分布情報が必ずしも十分把握されておらず、レッドデータ種の特定も一部の種群に限られ、重要な場所の特定は容易ではない。そこで、種の分布や希少性の代替指標としてGISやリモートセンシング、シミュレーションから得られる景観データを活用した生物多様性推定が期待されている。景観の分断化による負の影響が小さい限り、景観の多様性は生物の分布に対して正に働くと考えられており、陸上生物を中心にその効果とプロセスを解明するための研究が進められている。まず、異なる景観要素が隣接すると双方に存在する生物を足し合わせて全体の多様性が増加する。この景観の相加的働きは固着性の植物についてよく知られる。また、複数の景観を利用する種が存在可能になることによる景観の相補的働きは特に鳥類や昆虫類などの移動性の動物で見られ、各種の生活史や移動性と対応する景観スケールとの関係性が明らかになりつつある。一方で沿岸域の固着性生物においては藻場やサンゴ礁といった景観の生産性の高さ、移動性の生物においては、産卵や稚魚の育成場としての藻場の重要性が指摘されているものの、広域の景観指標と複数の生物の分布との関係を解明した研究は稀である。そこで、本発表では沿岸における景観の複雑性が生物多様性に与える重要性を示すために、これまで沿岸で景観を考慮して行われた研究の例を挙げ、陸上生物で行われた景観の代替指標の研究で用いられている指標やスケールとを比較する。特に、生息域や生活史による影響する景観の空間スケールの違い、水深による環境の勾配、物理的撹乱や潮汐の季節性、分布調査の困難さ、などの沿岸独自の要因に着目して、生物多様性を指標するための景観多様性の適切な指標化方法とそのスケール依存性について議論し、適用できうる種群の例と今後必要な調査の方向性を提案する。