| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T06-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
生物が分布する縁辺域で集団がどのように維持、形成されているのかを明らかにすることは、生物の地理的分布パターンがどのような環境要因で決まるのかを理解する上で重要な課題である。集団間の遺伝的分化、集団内の遺伝的多様性に関しては、DNAの多型情報を踏まえて比較的容易に評価できるため、それぞれの地域集団がどのように維持、形成されているのかを判断する上で有益である。サンゴ礁生物は熱帯に分布の中心が位置するため、高緯度海域では、生息環境の悪化に伴い集団の維持が困難になると考えられる。その結果、高緯度海域におけるサンゴ礁生物の集団サイズは小さくなりやすく、集団間の遺伝的分化の促進、集団内の遺伝的多様性の減少が生じやすいことが予想される。
黒潮流域に生息する我が国のサンゴ礁生物は、熱帯・亜熱帯海域に属する琉球列島から、暖温帯域に属する本土側まで、南北に沿って広く分布している。物理的、化学的、生物的環境が段階的に変化する分布の縁辺域に生息する日本周辺のサンゴ礁生物集団が、どのように形成、維持されているのかを明らかにするため、現在講演者らは、サンゴ礁域に生息する軟体動物やサンゴ、棘皮動物などの底生生物(ベントス)を対象として、DNAマーカーを用いて、サンゴ礁域における海洋ベントスの遺伝的集団構造を明らかにすることを試みている。今回の発表では、講演者らが共同で行っているサンゴ礁ベントスのDNAマーカーによる集団解析の研究事例を概説し、本海域でのサンゴ礁生物の地理的分布がどのような環境要因によって決まるのかについて議論したい。