| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T06-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

島嶼域サンゴ礁の幼生分散動態とメタ個体群モデルによる存続可能性解析

向草世香(JSTさきがけ,長大・水産,琉大・熱生研)

海洋生物の大半は、生活史の初期を浮遊幼生として過ごし、この間に海流に乗って別の生息地へと分散する。80年代までは、幼生の分散範囲は広く、新規加入個体の多くは別の生息地でつくられた幼生であると考えられてきた。しかし90年代後半から、幼生は生まれた生息地にある程度戻っていることが明らかとなりはじめ、今では、海洋生物は比較的閉じた系を持つと考えられている。本発表では、海洋生物の一例として造礁サンゴに着目し、沖縄の島嶼域で観察されたサンゴの幼生分散動態と、そのモデル化に関する研究を紹介する。

1998年の白化現象によって、沖縄・慶良間海域のサンゴは壊滅的打撃を受け、限られた場所にのみ親サンゴが残った。そこで2003年から05年まで、本海域を7地域に分け、各地域に3~7地点を設けた階層的調査法によって幼生加入量とサンゴ被度を測定した。加入量はポアソン分布に従うとし、その平均値が各地点に共通の固定効果と、地点差や地域差、また年変動を考えたランダム効果で与えられるとして、階層ベイズ法により解析した。その結果、地点差が大きく、同じ地域の中でも数km離れた地点間で加入の傾向が異なることが分かった。本海域のサンゴ幼生動態は、比較的小さな地理的スケールで決まっていることが示唆された。

幼生(もしくは個体)の移動分散によって結ばれた複数の生息地を考えるメタ個体群モデルでは、幼生分散は全ての生息地間で均一か、生息地間で対称的であると仮定されてきた。しかし、実際の分散動態が明らかになるにつれ、不均一、非対称な分散がモデル化され始めている。このような不均一な分散がメタ個体群の存続可能性に及ぼす影響について、これまでの理論的研究をレビューするとともに、沖縄・慶良間海域のサンゴメタ個体群への適用を目指した研究を発表する。


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