| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T13-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
成虫が必ずしも幼虫の発育にとって最適な寄主に産卵しないことは多くの昆虫で知られている。一見すると不合理なこの行動は、適応的な仮説によって解釈できるだろうか。昆虫と植物との共進化や天敵回避といった寄主選択に関する既存の仮説では、幼虫期の生存や発育に焦点が当てられてきた。しかし多くの場合、幼虫の移動力は限定的であり、成虫に対するベギングはできないので、寄主選択において決定権を持っているのは成虫だと考えられる。したがって、成虫期の適応度にも着目するのが合理的なアプローチといえる。私の研究では、成虫が自らの繁殖成功を最大化するために、幼虫の発育にとって好適でない寄主を選ぶという仮説を検証した。
クリサキテントウは松につくアブラムシに適応しているスペシャリストだが、飼育下ではさまざまなエサを食べて発育することができる。むしろ、松のアブラムシは素早いため、テントウムシの幼虫にとって捕まえにくく、さらに栄養的な質もよくない。対照的に、近縁種のナミテントウは野外で複数の好適なアブラムシを利用している。そこで、他種が存在するときの成虫の繁殖成功の低下(繁殖干渉)を調べたところ、クリサキテントウでは著しく交尾機会が減少したのに対し、ナミテントウではそのような影響はまったく見られなかった。これらの結果から、クリサキテントウは繁殖干渉を回避し、同種との交尾機会を確保するために、あえて幼虫の発育にとって好適でない寄主で交尾・産卵していると考えられる。
本研究は成虫の産卵選好性と幼虫の発育パフォーマンスの不一致を適応的に説明している。また、成虫の繁殖成功を高めるという行動生態学の視点から、植食者、捕食者、寄生者といった多様な分類群における寄主選択を統一的に説明しうることを意味している。さらに、産卵場所選択における選択圧を正しく認識することで、産卵刺激物質の進化についても合理的な解釈を与えられるだろう。