| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T15-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
多くのコケ植物種が定着サイトとして枯死木を利用しており、その群集構造は腐朽状態によって変化する。枯死木の樹種や周辺環境は腐朽のパターンを変化させるため、コケ植物の局所的な群集構造に影響する要因であると考えられる。そこで、本研究では、北海道北部の天然生針広混交林において、枯死木の腐朽状態とコケ植物の定着パターンとの関係を明らかにすることを目的として、腐朽に及ぼす樹種や周辺環境の影響の定量的な評価と、そこに定着しているコケ植物の調査を行った。本研究では、枯死からの年数や樹種および周辺環境を正確に特定するために、施業履歴が明らかな択伐施業地の伐根(合計13樹種192本)を調査対象とした。
伐根上で観察されたコケ植物種は、出現頻度が5%以下の37種を含め、合計23科33属51種であった。伐根あたりの平均出現種数のピークは、広葉樹種で枯死後16年程度(3.9±2.0種)、トドマツで26年程度(4.0±2.1種)であった。このことは、トドマツの材密度の半減期が約60年であり、広葉樹種に比べ最大3.8倍ほど遅かったことを反映すると考えられた。次に、各伐根の腐朽状態や周辺環境が出現種数に及ぼす影響をみると、光環境の影響は認められず、代わりに、周囲のササの存在量の負の効果が検出された。ササは積雪条件下で枯死木へ物理的ダメージを与え、腐朽段階の進行やそれに伴うサイズの減少を引き起こすことが示唆されたため、このことがコケ植物の種数に影響した可能性があるだろう。このように、枯死木の樹種や周辺環境の違いによって生じた腐朽傾向の変化は、コケ植物の枯死木での定着パターンに影響を及ぼしていることが明らかとなった。講演ではさらにコケ植物の種構成と腐朽状態との関係についても議論を進めたい。