| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨 ESJ59/EAFES5 Abstract |
企画集会 T15-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
木材腐朽菌は、森林生態系における枯死木の主要な分解者であり、細胞外酵素を分泌することで化学的に枯死木を分解している。木材腐朽菌による分解を受けた枯死木は、菌類の分解機能の違いにより、褐色腐朽・白色腐朽・軟腐朽という3つの「腐朽型」に大別できる。腐朽型の違いは、材の有機物組成やpHの違いを介して、枯死木に生息する他の生物の群集構造や活性に影響を与える。例えば、エネルギーとして資化しやすいホロセルロースを多く含む白色腐朽材は、難分解性のリグニンを多く含む褐色腐朽材よりも、定着する昆虫の多様性が高く、窒素固定細菌の活性が高い。一方、褐色腐朽材にも、特異的に生息する昆虫がいることが知られている。このような腐朽型の影響が、枯死木に定着する多くの分類群の生物に広く見られるならば、木材腐朽菌は枯死木をめぐる生物群集の構造を決定する非常に重要な働きをしていると考えられる。
本研究では、アカマツの倒木を分解する木材腐朽菌の種組成と、材の腐朽型、および倒木上に定着している樹木実生・コケ・変形菌の種組成との関係を明らかにすることを目的に調査を行った。その結果、倒木上に定着している樹木実生の密度や、変形菌の多様性・種組成に、材の腐朽型が主にpHの違いを介して影響していることが分かった。コケの種組成に対しては腐朽型の違いによる直接的な影響は検出されなかったが、pHの影響が検出されたので、木材腐朽菌の材分解によるpHの変化がコケの種組成に間接的に影響している可能性が示唆された。以上の結果から、材の腐朽型は枯死木に定着する生物群集に広く影響していることや、特定の腐朽型と結びつきの強い生物群集があることが明らかになった。講演では、そのような生物群集の中での種間の生態ネットワークについても考察したい。