| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T15-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

樹木腐朽と樹洞を巡る生物間相互作用:Nest-Webの構築に向けて

小高 信彦(森林総研)

木材腐朽菌による樹木の心材腐朽は、森林に生息する鳥類および哺乳類の10~40%の種の住み場所として必要不可欠な樹洞の形成と深く関わっている。樹洞利用種は、自ら樹木の腐朽部に巣穴を掘る一次樹洞利用種(キツツキ類など)と、巣穴を掘ることの出来ない二次樹洞利用種に大きく分類することができる。キツツキ類を介した、樹木と樹洞を利用する生物間相互作用は、Nest-Webとして捉えられ、森林動物群集の多様性を維持する重要な系の一つと考えられている。ここでは、沖縄島北部の亜熱帯常緑林に固有のキツツキである、ノグチゲラが生産した樹洞を介した生物間相互作用についての研究事例に基づき、植生構造の違いや樹木病害による枯死木の発生が、Nest-Webの構造に与える影響について紹介する。 

ノグチゲラは、照葉樹天然林の優占種であるスダジイの老齢木に主に営巣すると考えられてきたが、近年、松枯れ被害によって生じたリュウキュウマツ(以下マツ)枯死木への営巣が確認されるようになった。照葉樹林におけるノグチゲラの古巣の利用率は、マツ林よりも高く、フクロウ類やカラ類によって利用されていた。利用率の違いは、マツ枯死木に掘られた古巣は倒壊しやすく、翌年までの古巣の生残率が極めて低いためであると考えられた。松枯れ被害による枯死木の発生は、Nest-Web構造における一次利用の段階、すなわちノグチゲラの営巣場所の創出に貢献していたが、その二次利用種への波及効果は限定的であることが明らかとなった。温暖湿潤であり、台風の常襲地域でもある沖縄島北部では、枯死木の寿命は短く、安定した樹洞利用群集を維持するためには、枯死木と比較して生残率が高い、心材腐朽した生立木に掘られた古巣の存在が重要であると考えられた。


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