| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) B1-05 (Oral presentation)
乾燥地草原では人間の過剰な土地利用により土地荒廃が進行している。facilitation(生物間の正の相互作用)は、生態系機能や植生の維持・回復に有効な、生態機能をいかした環境修復ツールとして期待される。放牧草原では、灌木や不嗜好性草本が栄養塩供給や被食回避作用をもつことで嗜好性草本の生育を促進させるようだ。一方、嗜好種がfacilitation作用をもつ場合、嗜好種にかかる放牧圧に伴いその作用が変化するかもしれない。
モンゴル草原に分布する嗜好性のイネ科叢生草本(Achnatherum splendens)はfacilitation作用をもつことが期待されるが、過度な放牧利用により株の縮小・衰退が生じている。本研究は、被食されるイネ科叢生草本がfacilitation機能をもつか、その機能がイネ科叢生草本にかかる放牧圧に伴い変化するかを検証した。
弱・強放牧圧域において、A. splendensの株サイズ、株が形成する3ハビタット(株上,株際,株外)に出現する植物個体数、種数および被食の有無を測定した。その結果、株上・株際で嗜好種の個体数が増加,被食率が低下し、A. splendensは被食回避作用を示した。また、A. splendensの株サイズは強放牧圧域で小さくなり、株サイズの縮小とともに株上の嗜好種個体数および種数が減少した。
このように、モンゴル草原において嗜好性のイネ科叢生草本はfacilitation機能をもち放牧地植生の維持に寄与しているが、過剰な放牧利用によりイネ科叢生草本およびその機能が消失する可能性がある。本結果は、放牧地管理を考える上でfacilitation機能および機能を有する種の保全の重要性を示している。