| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-22 (Oral presentation)

中部リニア新幹線計画帯のシダ植物多様性の過去30年間の変遷

*佐藤利幸・田中崇行・松浦亮介

昨年(2012年)リニア新幹線の予定コースが公表された。東京から名古屋にかけてほぼ直線的に250kmのベルトとなる。ここでは南北約30km、東西へ250kmの範囲で、過去(1900年から1985年)のシダ植物多様性資料(倉田・中池、1976-1996)を基準に、佐藤ら(1996-2012)の調査資料を整理し、約30年間でのシダ植物相の変遷を比較する。このコースは、水平的にも垂直的にも暖温帯から冷温帯への移行帯(エコトーン)を含み、植物多様性が高く、日本で唯一の大陸要素(ヒマラヤ・シベリア)の遺存植物(シダ植物)が確認されている。開発は慎重になされるべき運命のコースである。シダ植物は日本に1250種群、700種群が分布資料となり、中部地域には約400種群、リニア予定ベルトには約280種群が報告された。新調査では約210種群が確認された。 種数は75%に減っている。新追加種群は約30種(?)であり、100種が姿を消した可能性がある。10kmx30kmの範囲での東西比較を行うと、とりわけ名古屋東部および東京西部において、消失危惧される種群は50種および110種を超え、人為的な都市化がシダ植物の減少を促した可能性がある。一方山梨県中央部や長野県南部では20-30種群の新侵入や追加記録ができた。この30年間でのシダ植物群移動の大気候の影響も示唆される。過去と現在で同種群数が記録がなされた岐阜・山梨では、50%が共通で、25%づつが消失と追加がある。シダ植物は30年間で30%あまりの種構成変遷(Species assembly dynamics)を行うのかも知れない。今後、リニア新幹線完成には20年以上を要すことから、ゆるやかな植物変遷であってほしいと願う。なお30年前のホットスポットが消えて全域がなだらかな種数分布となった現実がある。岐阜・長野の県境の保全が急務である。 


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