| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) B2-24 (Oral presentation)
生物の生息範囲の制限要因を明らかにすることは進化的制約メカニズムの理解だけでなく生物多様性の保全にも重要である。生息範囲は環境要因と遺伝的要因によって制限され、特に遺伝的要因についてはゲノム中の遺伝的変異が重要であると考えられている。遺伝的変異の創出機構の一つとして重複遺伝子が着目されており、近年ショウジョウバエ属において多様な環境に生息している種ほどゲノム中の重複遺伝子が豊富であることが示された。しかし、この傾向が他の分類群でも観察されるかは明らかではない。さらに重複遺伝子は全ゲノム重複由来のOhnologと小規模重複由来のSSD geneが存在することが知られているが、ショウジョウバエ属は全ゲノム重複を経験していないためこれらの重複遺伝子の影響は明らかでない。そこで本研究では全ゲノム重複を経験した種において同様の傾向が観察されるかを検証し、さらに、環境適応能力に対するOhnologとSSD geneの影響を明らかにすることを目的とした。本研究では全ゲノム配列が既知である哺乳類16種を用いた。重複遺伝子についてはデータベースから取得したタンパク質をコードしている全遺伝子に対し相同性検索を行うことで同定した。OhnologとSSD geneについては、ヒトで既知であるOhnologとSSD geneとオーソログな関係にあるものを候補とした。生息環境多様性指数は各種の生息範囲内の気候データを基に算出した。その結果、ショウジョウバエ属と同様に哺乳類において重複遺伝子の割合と生息環境多様性の間には有意な正の相関が観察された。また、重複遺伝子であるOhnologとSSD geneのうち、SSD geneのみが生息環境多様性と正の相関があった。これは多様な環境への適応においてSSD geneがOhnologよりも重要な役割を果たしてきたことを示唆している。