| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-26 (Oral presentation)

交雑のカギをにぎる信号の消失: ヤモリ属数種の鳴き声による種認識機構

城野哲平(京大,理)

同所分布する近縁種間では、異種との繁殖干渉による適応度の低下を避け、種の独立性を維持するために、配偶相手を正確に認識するためのシグナルがしばしば進化する。日本に分布するヤモリ属8種は、分布が重なっているにも関わらず交雑しない種の組み合わせがある一方で、自然交雑を起こしている種の組み合わせも存在する。生殖前隔離としての求愛シグナルの種間差が、このような交雑状況の違いを生み出しているのではないかという仮説を検証するため、8種の鳴き声構造を比較した。その結果、4種が種特異的な規則正しいパタンの鳴き声で求愛し、残りの4種は規則的なパタンのない鳴き声で求愛することが分かった。また、交雑しない種の組み合わせ6組中4組では、両種が共にそれぞれ種特異的なパタンの鳴き声を示した。一方、交雑する種の組み合わせ4組では全てにおいて、片方の種が種特異的な鳴き声をもっていたが、他方の種はパタンのない鳴き声だった。これらの結果から、種特異的なパタンの鳴き声をもつヤモリ属ヤモリは、鳴き声を種認識に用いていることが示唆された。鳴き声にパタンのない種は種を区別できないため、交雑が生じると予測された。この予測を検証するため、種特異的なパタンの鳴き声をもつ種とパタンのない鳴き声をもつ種を用いて、メスに対するオスの求愛の鳴き声のプレイバック実験を行い、メスの鳴き声の選好性を調べた。その結果、種特異的な鳴き声の種のメスは全て自種オスの鳴き声を選好した一方で、パタンのない鳴き声の種のメスはそのような選好性を示さなかった。以上の結果から、鳴き声の種特異的パタンは種認識シグナルとして機能していることが証明され、鳴き声にパタンがない種は種認識能を失っていることが示唆された。先行研究における7属20種全ての鳴き声が規則正しいパタンをもった構造であることから、規則正しいパタンの鳴き声がより祖先的な形質であると考えられた。


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