| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) C1-03 (Oral presentation)
多くの生物は,捕食者や競争者が放出する化学物質や,攻撃などによる物理的な刺激からその存在を認識し,形態や行動,生活史特性を変化させる.中でも,捕食者に対する可塑的な防御は,誘導防御と呼ばれる.誘導防御を含め,表現型可塑性の研究は近年,「進化」や「生態系機能」と関連させることで急速に発展してきた.遺伝子群やタンパク(分子機構,進化プロセス),生体内の物質・エネルギー収支(コスト-ベネフィット),種内競争(自然選択による進化),個体群動態(系の安定化)などがその代表である.
その一方で,個々の種の様々な環境への可塑的戦略が,野外群集の動態や物質循環にどの程度寄与しているかはよくわかっていない.その理由として,多くの種の生態学的特性が不明で知見が断片的であること,複数の生物的・非生物的要因が複雑に関係しあうことなどが挙げられる.
本研究では,「捕食者の餌選択」と「生態系内の物質循環」を決定する要因として,誘導防御の機能的役割を明らかにすることを目的とした.諏訪湖生態系を対象とした安定同位体解析を行った結果,捕食者(ノロという捕食性ミジンコ)が防御形態の餌生物(ニセゾウミジンコ)をほとんど利用していないことが明らかになった.また,食物網における特定のリンクが遮断されることで,植物プランクトンから魚類(ワカサギ)までの物質・エネルギーの流れに,2つの異なるルートが形成されることがわかった.