| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) C2-19 (Oral presentation)
高緯度に生息することにより生じる負の影響を,遺伝的に高い成長能力を適応進化させることにより補償する「緯度間補償」が変温動物において報告されてきた.魚類では近年,同一の種・系統群に属する種であっても高緯度の集団ほど初期成長が遺伝的に速いことが明らかにされている.その一方で,高い成長パフォーマンスを示す個体では,捕食者との遭遇確率が増えるために生活史初期において被食により死亡する確率が高まることを実証した研究例もある.
本研究では,自然環境における稚魚への捕食圧を南北で比較することにより,高緯度域で成長率が高くなる「緯度間補償」をさらに補償しうるメカニズムを群集生態学的側面から考察する.魚類の生活史初期における重要な生息場の一つとされるアマモ場をフィールドとして,稚魚への捕食圧を南北比較した.2010年2-8月に13ヶ所(鹿児島〜北海道)のアマモ場において魚類採集網(目合い5mm)を用いて100m2のエリア内に分布する魚類を捕獲し(各地くり返し4回),その胃内容物を調査した.魚類群集はその種組成により岩手県以北と宮城県以南の2つのクラスターに区分され,北ではカジカ類,ギンポ類などが,南ではメバル類,フグ類などがバイオマスで優占した.魚食性魚類の単位面積当たりバイオマスは北側で大きく,それらの胃内容物における魚類の出現頻度も北側で有意に高かった.以上の結果から,我が国周辺のアマモ場では,稚魚に対する捕食圧が北方で高い可能性が示唆された.