| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(口頭発表) C2-20 (Oral presentation)
シカ科は一年の特定の時期に限定して繁殖をおこなう季節繁殖動物であるが、その様式には、種により、また同一種でも生息場所によっていくつものバリエーションがみられる。
北中米に生息するオジロジカは、分布の北限(北緯60°)と南限(南緯15°)の緯度差が75°にもなる。北緯30°を超える地域の個体群は、秋に交尾し春に出産するが、緯度が下がるにつれてこのパターンは明瞭ではなくなり、熱帯系亜種では出産期が通年にいたることが報告されている。
ニホンジカはベトナム(北緯14°)からロシア沿海地方(北緯50°)にかけて分布しており、国内に限っても慶良間列島(北緯26°)から北海道(北緯45°)にいたる広い地域に生息している。オジロジカとはいかないまでも分布域の緯度差は大きく、繁殖にもなんらかの地域変異が生じていることが期待される。これまで、静岡富士地域、熊本県南部、兵庫県北部で合計313個体の胎児重量を計測した。胎児重量は、Mitchell and Lincoln (1973)に方法にしたがい胎児齢(日齢)に変換し、妊娠期間と捕獲月日より出生日を推定した。また、同様の調査を行った北海道道東(Suzuki et al., 1996)および千葉県房総(Asada and Ochiai 1996)の報告を用いて、九州から北海道にいたる出産パターンを比較した。この結果、出産日の中央値は、千葉(5月15日)、兵庫、熊本(5月22日)、静岡(5月30日)、北海道(6月17日)を暖かさの指数が低くなるにつれて遅くなる傾向が見られた。同様の傾向はマウンテンシープやトナカイでも報告されており、出産時期を餌の質や量が最良となる季節に同期させることによって新生児の生存率を高くするための適応であると考えられた。